2023年4月より岩手県産婦人科医会会長に就任しました。岩手県は面積が広く、山岳地形・寒冷地気候で日本でもアクセスの悪い地域であり、周産期医療・母子保健活動が困難な地域でしたが、歴代の産婦人科医師・小児科医師・助産師・保健師の絶え間ない努力により全国レベルまで改善しました。しかしながら、近年の産婦人科医師不足により極端な出産施設の減少により、様々な課題が生じています。

 岩手県産婦人科医会の設立目的は、母子の生命健康を保護し、女性の心身にわたる健康を保持・増進することにより、県民の保健の向上に寄与することにあります。そのためには、本会会員が安定した経済的基盤の上に、プロフェッショナルな団体として、質の高い安全な医療を提供出来るように様々な課題の解決に向けて、これまで以上に役員・会員とともに尽力していかなければなりません。

 妊娠中の母児の健康管理、出産後の母児愛着形成、母と子の関係性を重視した母子の健全なメンタルヘルスの維持、小児・思春期からヤングアダルト(AYA)世代へのヘルスケア、妊娠前のヘルスケア(プレコンセプションケア)、不妊医療体制の充実、周産期医療体制の充実について切れ目ない支援を通して次世代に健康を引き継ぐこと、女性のライフステージに応じたヘルスケアを岩手県医師会・岩手県助産師会・岩手県看護協会等の関係専門職能団体等と連携して推進していきます。

 岩手県での深刻な産婦人科医師不足・出産施設不足に加えて、現在、新型コロナウィルス感染症とロシアによるウクライナ侵攻により産婦人科施設は大きなダメージを受けています。

 沿岸・県北地域の出産は数少ない産婦人科医で辛うじて地域の出産を維持できていますが、人口の多い盛岡市・北上市・一関市・宮古市では、開業医が出産を取り扱い、産婦人科医師の少ない基幹病院を支えてきました。しかしながら、分娩数の減少による収益の減少に加えて、まだ続く新型コロナウィルス感染症対策、新興感染症対策、医療安全対策に膨大は費用がかかり、物価高騰による材料費の値上げ、エネルギー高騰による燃料費の値上げ、更にベースアップにより人件費(助産師・看護師・事務職員)の値上げにより更なる経営危機となり、廃業を考えている開業医が増えてきています。開業医の閉院の連鎖により妊婦さんは出産施設を選べることもできず、病院への予約が集中する結果、分娩制限に至り、出産施設が確保できない深刻な状況に陥ることが予想されます。

 この危機を打開するために、開業施設への支援を重点課題として岩手県の周産期医療を守るための医会として、県民の健康福祉の増進に寄与したいと考えていますので、よろしくお願い致します。

岩手県産婦人科医会会長 小笠原敏浩