はじめに

現在、岩手県産婦人科医会では、岩手県周産期医療情報ネットワークシステム“いーはとーぶ”の全県普及に取り組んでいます。インターネットを利用した周産期医療情報ネットワークシステム“いーはとーぶ”で妊婦・胎児情報を共有し、母体搬送や市町村保健師と情報共有して地域の妊産婦褥婦の見守りシステムを構築しています。また、県立大船渡病院を軸として、市町村(大船渡市・陸前高田市・住田町)で妊婦情報を共有した見守りネットワークが東日本大震災で有用性が示されました。

“いーはとーぶ”の基本コンセプト

“いーはとーぶ”は、岩手県内の市町村や周産期医療機関をセキュリティの確保された情報ネットワークで結び、妊娠届出から妊婦健診・分娩・産後までの一連の経過を複数の医療機関で共有することによって、スムーズな紹介・搬送が可能となります。また、市町村と妊婦健診情報を共有することで、リアルタイムに情報共有が可能で、産前産後の必要時にスピーディな支援、相談、訪問が実現できます。特に産後育児支援、メンタルヘルスケアには早期の支援が不可欠であるため、医療機関と市町村がリアルタイムに情報共有することは効果的です。

現在の登録状況と今後の展望

現在、登録医療施設は40施設(分娩取り扱い施設40施設の100%)、登録市町村31市町村(33市町村の93.6%)です。県内の分娩取り扱い医療機関すべての登録が済んでいるので、今後、岩手県の分娩取り扱い医療機関をオンラインで繋ぐ巨大なデータベース(ビックデータ)構築が可能になります。また、データベースから岩手県の周産期統計情報を容易に出力することができるので、各種提出書類・帳票の作成・出力、学会発表用の統計もできます。

大きな被害に見舞われた陸前高田市と “いーはとーぶ”

044c9fe4d235f4c5514ed64c4b97aa1e_s陸前高田市は大地震発生から約40分で街が津波になめ尽くされ、市役所の機能もすべて失いました。市役所にある住民情報や妊婦情報もすべて一瞬で失いました。 “いーはとーぶ”に入力してきたデータが盛岡市にあるサーバーに残っていたので、このデータを陸前高田市に提供できました。これにより陸前高田市は大津波で失われた妊婦情報を得ることができ、妊婦の安否状況・避難状況の把握や保健指導にも貢献できました。岩手県周産期医療情報システムいーはとーぶは、普及の段階で震災に見舞われましたが、今回の震災で有効性が実証されたので、今後は更なる普及を図りつつ、さらに震災に強い“いーはとーぶ”を構築していきたいと思っています。